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ロンチサイトより愛をこめて・・・
 ジャパンホンダグランプリで過去8回、年間チャンピオンになり、2000年にはジャパン・ワールドホンダグランプリで優勝。そして、スペインで開催された空のオリンピック「ワールドエアーゲーム」でも日本人初優勝!と3冠を制覇した藤田昌彦さん。現在50歳。油の乗り切った競技パイロットであると同時に、渡良瀬連絡会の熱気球の代表としても活躍中です。
**人生の中心に・・・**
藤田昌彦さん 「気球を始めたのは大学1年の時。でも大学のサークルとかではないんですよ。当時はまだライセンス制度もなかったので、飛べる人に乗せてもらった。渡良瀬で藤森さんと飛んだのが初フライトになるかな。その頃は、競技なんてとんでもない。ただ、風まかせに飛んで、降りられるところに降りるのが精一杯!今のようにリジット棒*1もなくてヘルメットが必要だったんです。(当時はワイヤーとカラビナで繋いでいただけなので、着陸時にバーナーが頭を直撃することも・・・)経験値も低いのでずいぶんと痛い目に遭いましたよ。それだけにハードランディングなんかしなかったなぁ」
当時はつなぎ・長靴・ヘルメットがバルーニストのユニホームでしたっけ。
「そのときのチーム仲間で気球を続けている人はいないなぁ」
学生時代にサークルなどで、バルーニングを楽しんだ人のいったい何割くらいが、生涯(ちょっと大げさかなぁ)気球を続けていけるのだろうか・・・?
――気球を続けていく原動力は何ですか?
「僕の場合はね、人生の中心に置きたかったんです。だから、就職の時も気球が続けられる仕事を選びました」
**日本を飛び出して**
――海外で飛ぶことも多いと思いますが・・・
「30数カ国になるかな。アメリカでは毎週のように競技会があるでしょ。ネットなどで検索してエントリーフォームを取り寄せて、エントリーする。それぞれお国柄がでて、楽しいですよ」
海外の大会にも多数出場している藤田さんは、アメリカのバトルクリークには招待選手として出場することもあるそうです。
――最も印象に残った大会は?
「初期は、カナダの太平洋選手権が面白かったかな。あと、トルコのカッパドキア。とにかく景観がすばらしい!いわゆる奇岩地帯なんですよ。岩がラクダやきのこの形だったり、昔は住居だった岩もあったりして、まるで遺跡の上を飛んでいるみたい。人種的にもとてもフレンドリーで好きだなぁ。ヨーロッパとアジアの丁度中間なので文化的にも面白いですよ。それから、食べ物が安くてとてもうまい!米、肉、お茶、ナスなど日本人好み。ぜひ、また行きたいですね」
――海外に行って思うことは?
「日本に比べて環境に恵まれていますね。特に、ヨーロッパ。日の長さが違うでしょ。夜9時過ぎまで明るいからね。彼らは残業なんてしないから、17時に仕事が終わって18時頃から準備にかかり19時に飛んで21時頃まで楽しめる。そして、回収後に酒でも飲みながら食事する。言ってみれば、アフター5の楽しみね。エリア的にもとても飛びやすいし、降りられるところが多い。草地から草地なので日本のように汚れない。毎日のようにトレーニングできるのが羨ましいですね」
――日本のチームと海外のチームを比べて思うことは?
「国単位でのチームワークがすごいですね。たとえば、ドイツのチームはズバ抜けていて、ウーベ*2をトップにした師弟関係が完全にできているので、まとまりがある。誰かを軸にしたチーム作り、我々がやろうとしてもなかなか難しいんじゃないかな。愛国心の違いというか、彼らはドイツの中で誰かが1位になればいいという考えがある。日本では、誰かが勝つために他の選手がバックアップにまわるというのは難しいんじゃないかなぁ」
――では、今年の世界選手権の日本チームの作戦は?(インタビューは4月でしたので今はもっと具体的なことがあるかも・・・)
「それぞれの考え方も違うだろうけど、情報を集め共有し合って、大会中迷った時には話し合い解決策をだしていこう。すこしでも、プラスになるように皆で協力しようと話しています」 ――狙っているのは?
「もちろん、1・2・3位ですよ!」
表彰式のインタビューはできれば日本語でしたいし・・・。みんながんばって!
**勝つためには**
――表彰台が似合う男ですよね。常勝の秘訣は?
今年の佐久大会は2位 「向上心みたいなものですかね。もっと、上を目指したいと思う気持ちが大切だと思います。自分は気球を中心に置いてやっているのだから、どうせやるなら世界一に立とうという気持ちでやっています。(日本一じゃなくて世界一というところが凄い!)イメージトレーニングが大切。メンタル的なものもね」
――プレッシャーもあるでしょ?
「プレッシャーに勝つためには、とにかくそれを無視することですかね。そして、事前の段階で自分はできるんだ!という暗示的なものも重要です。負の部分は一切考えない。不安になったときは忘れる、無視する、タスク*3のことだけを考えるようにします。例えば、自分がトップで2位と僅差だった場合、追い上げられるんじゃないかと意識をしたり、相手がどこから飛ぶのか、どんな飛び方をするのか気になりますよね。でも、僕の場合は一切気にしないようにしています」
――追い上げていくほうが好きなんですね。
「初日からトップに立つというの、僕自身ではあまりよくないかな。中間位でトップに立つのがベストかな。だから、タスク数は多いほうが好きです」
――藤田さんは第1回のホンダグランプリからずっと参加してくださっていますよね。
「はい。グランプリは好きですから」
――グランプリの楽しいところは?
「12ポイント制で争うのが面白いですね。とにかくトップポイント12点を目指して飛ぶ。2位とは3ポイント差があるので誰よりもゴールへ近づく努力をする。そして、それが報われた時はすこぶる嬉しいですね。それと、日本各地で5戦するので、それぞれ違った環境、風土、風を味わえることも楽しいですね」
――他の大会とグランプリの違いは?
「年間をとおして勝敗を決するわけですから、真の実力が問われます。他のローカル大会ではフロックで勝てることもありますが、グランプリでは、運やツキだけでは勝てませんね」
――今年で14年目を迎えたグランプリについて感想をお聞かせください。
「そうですね、ずいぶん日本人パイロットのレベルアップに貢献してくれたと思いますよ。 グランプリの大会は国際ルールに則って、シビアでハイレベルな競技を異なった地形で行います。その中で優勝を指して切磋琢磨するわけですから、上手くならないわけがないですよ。日本人選手が、世界選手権で強豪国と肩を並べられるようになったのも、グランプリあってこそだと思いますよ。」
**家族でやるということ**
――藤田さんをはじめ国内外のトップパイロットたちが家族をクルーとして参戦していますが、そのメリット、デメリットは?
「いちばん気心が知れていますからね。ストレートにズバッといってもくれるし・・・」ホント、こと気球の競技に関して藤田さんにズバッといえるのは、奥様のさと子さんくらいでしょう・・・。
「ガクってくることもありますが(笑)彼女が言うとおりだなぁと思うことも多いですよ。
確かに歯に衣着せずに言ってくれる人が身近にいるってことはいいよね。それと、家族でがんばろう!というパワーもあるし」

――競技の時、さと子さんと飛ぶのは?
離陸前 さと子夫人と 「僕は目があまり良くないので、そのためにがひとつ。あとはフライト中の事務的な仕事を任せています。例えばマーカー*4にゴールを書いたり、地図に書き込みを入れたりといった仕事を。そうするととてもリラックスして競技に集中できるんですよ」
藤田さんが離陸の時やゴールを攻めたりする時に、ご夫妻で観客の皆さんに笑顔で手を振っているのはとても好感が持てます!
――長男の雄大君がパイロットになりましたね。
「嬉しかったなぁ。最終的な夢は2人で世界選手権に出場して1・2フィニッシュを決めることですからね。それまで、僕が持つかどうかが問題ですが・・・。我が家ばかりでなく、ジュニアパイロットがどんどん生まれていることは本当に嬉しいです」
――ローカル大会で優勝したりしている雄大君ですが、英才教育でもしたの?
「そういうわけじゃないけど、小さい時から連れていっていたからね。海外も20カ国位は行ったので、外国の選手とも知り合って刺激を受けたんでしょう。大学のクラブも今はあまり活動をしていないようですが、うまくまとまればいいね。今から楽しみです」
**スカイフィールドわたらせ**
この春から、熱気球の等スカイスポーツの占有地「スカイフィールドわたらせ」を国から借りられることになりました。
スカイフィールドわたらせ ――藤田さんは渡良瀬連絡会の会長として、ずいぶんご尽力をなさったと聞いていますが・・・
「3年前から渡良瀬遊水地内に借りることはできないかと、動き始めました。熱気球だけでなく遊水地でスカイスポーツを楽しんでいるスカイダイビング、やマイクロライトの団体とも話し合って、ようやくこの春実現しました。許可がおりたときは本当に嬉しかったなぁ!!30年間渡良瀬で飛んでいて、いつも肩身の狭い思いをしていましたからね。決められたロンチサイトはないし、人が草刈りをした後や土手の下の狭い場所でやっていたので、やっと安全にできるところが借りられて本当によかったと思います」
――皆で砂利を敷いたり、ロンチサイト(スカイフィールドわたらせのこと)の整備をしたんですよね
「ロンチからの初フライトの日はあいにく雨だったけれど、その合間をぬって飛びました。僕を含めて5・6機が飛んだんじゃないかな。そのときの感想?今までとは明らかに違う感覚でした。そして、スカイフィールドわたらせは上空から見ると結構広いことにも感激しましたよ」
スカイフィールドわたらせが使用できるようになって2か月。やさしい木立のあるロンチサイトは皆に愛されています。毎月草刈をしたり、フライト後にバーベキューや交流会などを開いて、今まで以上にバルーニングを楽しめる最高の場所になっています。
「これからやりたいこと? 最終的には息子と1.2フィニッシュ!そして、まだ飛んだことのない国で飛びたいですね!」
トップパイロットとして、ずっと日本の気球界をリードしている藤田さんは、もちろん今年11月19日から開催される「とちぎ熱気球世界選手権」の日本代表選手のお一人です。前回、2004年オーストラリアでの世界選手権では、日本人過去最高位の第5位の成績を残しています。今年はいわばホームでの開催になるわけですので、世界一をめざしてがんばってください!!ご活躍を期待しています。ありがとうございました。
*1 バスケットとバーナーをつなぐ4本の柱のようなもの
*2 ウーベ・シュナイダー選手。ドイツのトップパイロット。過去4回ワールドホンダグランプリで優勝。ヨーロッパチャンピオンでもある。
*3 熱気球の競技のこと
*4 ゴールに着陸できないので、ゴールに近づいた時に上空から落としマーキングする小さな砂袋(中にはプラスチックのチップが入っている)がついたリボン状のもの。
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